去る1月30日から2月2日まで、原宿・vacantに3日間限定の「TYPE Pop-up Store」がオープンしました。週末には、「TYPE」にまつわるふたつのトークショーも開催。そのイベントの模様を2回に分けてレポートします。
Interview: 原田優輝
Pop up-Store最終日に開催されたトークショーには、文字をテーマにしたさまざまな作品群で知られる大日本タイポ組合の秀親さんと塚田哲也さん、独自のタイポグラフィをベースにしたグラフィックデザインや映像制作、さらに音楽家やラッパーとともに展開するライブパフォーマンス「TypogRAPy(タイポグラッピィ)」などを展開する大原大次郎さん、料理のレシピをテーマにしたラップで人気急上昇中のDJみそしるとMCごはんさんが、お気に入りの「TYPE」をかけて登場してくれました。
(左から)大日本タイポ組合の塚田哲也さん、秀親さん、大原大次郎さん、DJみそしるとMCごはんさん
「僕らと大次郎は普段文字的な仕事をしているので、このメガネ文字イベントに呼ばれたことは不思議じゃないけど、なぜここにみそごはんちゃんがいるの?」という大日本タイポ・塚田さんの軽いツッコミからトークショーがスタート。この日は、事前にゲストのみなさんに手書きの質問カードを用意して頂き、自分が引き当てた質問に答えるという形式でトークが展開されました。
「ゲシュタルト崩壊は朝飯前ですか?」
大日本タイポ組合の作品を見たDJみそしるとMCごはんちゃんが、完全に"当て書き"した質問を、塚田さんが見事に引き当ててくれました。「前はよく(ゲシュタルト崩壊)してましたけど、最近はあまりないですね。一文字ずつ意味を認識しながら作っていくから、意外にそんなことないんですよ」という塚田さんに、大原さんがこんな質問を投げかけます。
大日本タイポ組合のおふたりは書道をされていますが、ひたすら同じ文字を臨書していくこともあるわけじゃないですか。これもやはり言葉の意味を理解しながらやっていくんですか?(大原)
臨書では、中国の碑文などを書き写したりするんだけど、例えば「誰々がインドまで行って偉業を成し遂げた」というような内容が書いてあったとしても、その内容は無視して、文字のバランスや位置関係だけを見て書いていくんですよね。でも、臨書する時は、一文字一文字を独立したものとして書いているわけではなくて、ひとつの字の終わりと、次の字の始まりはゆるやかにつながっていて、字と字の間にも別の字がある感じ。(塚田)
そんな文字の前後の関係性から、DJみそしるとMCごはんちゃんのラップの話に展開すると、「みそごはんちゃんは韻とか踏むの?」と塚田さん。
「最近は少し踏めるようになりました。例えば、同じピーマンを使った料理でもいくつかレシピがある時に、韻が踏めそうな方を選ぶことはあります。でも最近ひとつ悩みがあるんです。『塩コショウ少々』とか『みりん小さじ1杯』とかってどの曲でも同じように使うしかなくて、そこに限界を感じているんです」と会場の笑いを誘っていました。
「アルファベット型のパスタは好きですか?」
次にごはんちゃんが引き当てたのは、なんと自分が書いた質問。そこから話は、多摩美術大学のオープンキャンパスで大日本タイポ組合が行ったワークショップのことに。来場者がパン生地で文字を作り、それをオーブンで焼き上げるという大日本タイポ組合らしいワークショップだったようです。
文字を作った時点でまず写真を撮るんだけど、1時間くらい発酵させると生地が膨らむから、そこでまた撮影する。それからオーブントースターで焼いて、持って帰ってもらうんだけど、オーブンで焼くとまた形が変わるから、一度で3種類のウェイト(文字の太さ)が楽しめる」と秀親さんが説明すると、すかさず塚田さんから「焦げたやつはブラックね」という
"グッドデザイソ"
的ツッコミが。
多摩美術大学のオープンキャンパスで大日本タイポが行ったワークショップ。
「好きな文字、苦手な文字はありますか?」
ごはんちゃんに続き、自分の質問を引き当ててしまった秀親さん。苦手な文字は「風」や、「けものへん」の入った漢字で、よく失敗するそうです。では好きな文字は?
インドのシンハラ文字が好きです。タイやミャンマーの文字も可愛いんだけど、シンハラ文字というのが特に良いので見てみてください。カエルみたいな形をした字や、赤ちゃんのオチンチンのような文字がいっぱいあるんですよ。(秀親)
ここで大原さんから、「そもそも文字自体は昔から好きなんですか?」と質問が。意外にも大原さんは、文字自体が特に好きというわけではないんだそうです。
もちろん仕事をしている以上、文字に愛着はあるんですけど、文字そのものが好きだと言ってしまうと、本当の文字好きの人に失礼だなと。自分は趣味的な意味での文字好きではないんだということはよく感じます。あえてそうならないようにしているところもあって、自分の中で疑問が出てきた時に初めて歴史背景を調べたりしながら興味の対象を広げていく感じです。(大原)
自分も近いところがあるかもしれない。文字を書く時に、そこに含まれる意味まで書き写せることが理想だと思うけど、それをしようとすると文学や歴史の知識が必要になる。でも、高校の時から漢文や古典が大嫌いだった。(秀親)
例えば、鉄道好きにも「撮り鉄」や「乗り鉄」がいるし、ダイヤを見てるだけの人とかもいるじゃないですか。文字好きにも色んなジャンルがあるんだと思っていて、そういう意味では自分たちも文字好きにはなると思うけど、そのポジションがそれぞれ違うんだよね。(塚田)
耳に残る文字とは?
トーク後半には、ごはんちゃんのミュージックビデオに登場する黒板の手書き文字の話から、大原さんが文字と音に関する興味深いお話をしてくれました。
昔の子どもたちは、先生が黒板に文字を書く時の音を聞きながら勉強していましたが、最近はホワイトボードやプロジェクターなどが増えていますよね。耳に残る文字というものがあると思っているんですけど、最近は文字からどんどん音がなくなっている。文字に伴う音というものに興味があって、ラッパーを招いて「TypogRAPy」などの活動をしているところがあるんです。(大原)
書道をする時に墨を刷る音とか、筆が紙にこすれる音もグッと来るよね。(塚田)
DJみそしるとMCごはん 「ピーマンの肉詰め」ミュージックビデオより。
僕は普段CDジャケットのデザインなどを通して、音楽の翻訳作業をしているところがありますが、文字だけで音楽と近づこうとしたらどうなるかというところで「TypogRAPy」をやっていて、これもひとつのグラフィックデザインとして成立するんじゃないかと思っています。いつかラッパーや噺家を集めて、ポスターなどを展示しないタイポグラフィ展をしたいなと思っていて、ここにいるみなさんにもぜひ参加してほしいです。(大原)
終始緩やかな雰囲気で進んだトークショーの最後には、会場のお客さんが、「『TYPE』についてはどう思いましたか?」というナイスな質問を投げかけてくれました。
今日僕がかけているのは「Helvetica」なんですけど、Webで見た時よりも(実物は)曲線が多いなと感じました。「Helvetica」の書体自体はもう少しカッチリしているところがありますが、メガネの方は優しい形になっていると思いましたね。あとサイズが少し大きかったので、小さめのフォントサイズがあるといいですね。あと文字間とかも(笑)」(塚田)
大日本タイポ組合の作品は、見立てで遊ぶことが多いと思っているんですけど、この「TYPE」もタイプフェイスの造形と直結しているだけではなく、「なんとなく◯◯っぽい」という感覚で楽しめる余白がありますよね。海外での反応も良いみたいですが、欧文書体に馴染みのある人たちが、日本人の得意技である見立ての感覚を面白がっているところがあるんじゃないかなと。(大原)
「TYPE」の次なる展開に期待したいです。ね、ごはんちゃん? (塚田)
はい。今日はとても勉強になりました。新しい世界に一歩足を踏み出していきたいと思います!(ごはん)
事前にゲストのみなさんに書いて頂いた質問カード。本番では引かれなかったカードの中にも興味深い質問がたくさん!