「TYPE」Pop-up Store Talk show

SESSION 1: 長谷川 踏太 × 橋詰 宗 × 榎本郁也 × 森山秀人

去る1月30日から2月2日まで、原宿・vacantに3日間限定の「TYPE Pop-up Store」がオープンしました。週末には、「TYPE」にまつわるふたつのトークショーも開催。そのイベントの模様を2回に分けてレポートします。
Interview: 原田優輝

トークイベント初日は、「Oh My Glasses」とともに「TYPE」を立ち上げたワイデン+ケネディ トウキョウの長谷川踏太さん、タイポグラフィ/フォントに深い造詣を持つグラフィックデザイナーの橋詰宗さんに加え、「TYPE」の「Garamond」モデルのデザインを手がけた榎本郁也さん、「Helvetica」モデル担当の森山秀人さんというふたりのメガネデザイナーにも登壇して頂きました。

(左から)森山秀人さん、榎本郁也さん、橋詰宗さん、長谷川踏太さん

ともに英・ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)を卒業し、大学の先輩・後輩の間柄になる長谷川さんと橋詰さん。そんなおふたりは、昨年開催されたクリエイター育成プログラム「HUMAN PRACTICE」のモデレーターを務めていたこともあり、頻繁に顔を合わせていたそうですが、もしかすると「TYPE」の発想はその間に生まれていたのかもしれないと長谷川さん。

「HUMAN PRACTICE」の打ち合わせの時に、いつも橋詰くんが黒縁メガネをしていて、凄くキャラに合っているなと思っていたんだよね(笑)。「TYPE」は、グラフィックデザイナーがかけているメガネと、その人のデザインに共通性があるというところから発想しているんだけど、いま思うと、橋詰くんと打ち合わせしている時にヒントをもらっていたのかもしれないですね。(長谷川)

書体の「普通」、メガネの「普通」

その後、「TYPE」のデザインに話が移ると、「フォントの特徴をメガネに置き換えるというコンセプトを聞いて、面白いプロジェクトだと思いましたが、フォントの特徴を生かしつつ、踏太さんが言う『普通』を表現することに腐心しました」とデザイナーの榎本さん。

あくまでもメッセージを伝えるために機能する文字/書体には、可読性や透明性、つまり「普通」が求められます。その「普通」の感覚をいかに表現していくかということがデザイン上の焦点になっていたようです。

今回の「Helvetica」「Garamond」は最もスタンダードな書体なので、床屋さんで「普通にしてください」とお願いをするような感覚でした(笑)。 特に「Helvetica」はデザインし過ぎると「Helvetica」ではなくなってしまうなと。ただ、どちらも見慣れている書体だから普通に感じられるだけかもしれないし、「普通」というのは人によって違う。その辺がとても難しかったし、やり取りを重ねた部分でしたね。(長谷川)

メガネの場合は、かける人の顔によって「普通」が変わったりもします。例えば、鼻立ちがしっかりしているフランス人やイギリス人の場合は、しっかりとしたボリュームのあるメガネが普通ですが、日本人などになると、もう少しフレームが細いメガネの方が自然だったりするんです。(榎本)

グラフィックデザイナーとして日々さまざまなフォントに接している橋詰さんの「3段階のウェイト(フォントの太さ)展開や、縁の処理の考え方をメガネに落としこんでいるところが面白い」という感想に対して、 「メガネのデザインの世界では、フレームの太さはデザイナーの個性やブランドのトーンによって変わることが多く、同じシリーズで意図的に太さを変えてラインナップすることはあまりない」と榎本さん。

どちらも「実用」と「装飾」の関係性が肝になる文字とメガネですが、その両者を融合させた「TYPE」のものづくりには色々な可能性がありそうです。 さらに長谷川さんからは、「欧米人と日本人では目と目の間の距離が違うから、サイト上でカーニング(文字詰め)をするようにメガネのサイズを調整し、オーダーができたらいいですよね」というアイデアも飛び出しました。

書体というのはメガネと違って、単体だけでは価値がなく、それを使って文字を打つことで初めて意味が出てくるものですよね。例えば、ファッションにまつわるフォントとしては、Tシャツなどのグラフィックがありますが、Tシャツを持っていることは自慢できても、その書体を持っているだけでは自慢できない(笑)。フォント自体はファションアイテムではないけれど、フォントはファッションと言うこともできる。不思議なメディアですよね。
(橋詰)

「普通」からにじみ出る個性

「TYPE」では、モチーフとなる書体の造形だけではなく、その歴史背景や文化などを踏まえた上で、メガネのデザインが考えられています。

メガネのデザインのひとつに、フロントが逆台形になっているウェリントンというタイプがあるのですが、「Helvetica」をメガネに落とし込んだらこの形がベースになるだろうというイメージは当初からありました。これ自体が「Helvetica」の形というわけではないですが、メガネのデザインにおけるスタンダードとも言える型をベースに、特に自分が好きなアメリカ製ウェリントンに近いところに着地させました。 一方で、見た目がクラシカルな「Garamond」が、メガネの原型に近いボストンタイプになったのも、自ずと出てきた答えだったと思います。(森山)

王道とも言える書体を、スタンダードなメガネのデザインに落とし込んだにも関わらず、長谷川さんの言うように「やや癖のある形」になっているところが面白いところです。橋詰さんがそれに関連する興味深い事例を、「Helvetica Forever」という本の中から紹介してくれました。

僕が興味を持っているのは、『Helvetica』というすでに市民権を得ている書体にどんな文化的背景があり、世の中でどのように使われてきたのかということなんです。いまでは限りなく透明に近い書体になっていますが、一方で、フォロワーとも言える現代のさまざまなデザイナーたちが色んな試みをしているんです。(橋詰)

そんな橋詰さんが、「Neutral」「Haas Unica」「Replica」「Union」という4つの「ヘルベチカクローン」と言われる書体を紹介してくれました。

Neutral

世にあるさまざまな書体の特徴を数値化し、それらの平均値を元に作られた書体。「無属性になろうとしているのに、ボールドなどは凄く癖があって面白いですよね」

Haas Unica

「Helvetica」に続くニュートラルな書体を作ることを目的に開発された「Haas Unica」。「現現在は流通していない書体です。Haas Unicaを使って本をデザインしたこともあります。とても組みやすく、再発してほしいフォントです」

Replica

「Helvetica」をデザインする際に使われたグリッドをあえて10倍に拡大し、荒いグリッド上でデザインされたフォント。「音楽に例えると、ジェームス・ブラウンのブレイクをもとにトラックを作っているようなもの。元ネタへのオマージュから新しいものが生まれる感覚に近いですね」

Union

「Helvetica」の代用書体として開発されたと言われている「Arial」と、「Helvetica」をかけ合わせて作られたフォント。「ここまで来るとほとんど間違い探しみたいになってきますが、その状況でニヤニヤしているフォントデザイナーの顔が目に浮かびます(笑)」

書体とメガネの関係性をテーマに、さまざまな話題が飛び交ったトークショー。最後に会場からは今後の「TYPE」の展開についての質問も。

海外のサイトでは、「Comic Sans」を作らないのかというジョークっぽい書き込みも多いんです(笑)。「Comic Sans」は手書き風のダサいフォントなんですが、それを使って「TYPE」のパロディを作ったり、「Helvetica」モデルのイタリック体バージョンを勝手にデザインしてアップしている人もいます。そういうネットでの面白い反応やアイデアなんかも参考にさせてもらいながら、次の展開を考えていきたいですね。(長谷川)

長谷川踏太

1972年東京生まれ。1997年ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)修士課程修了。その後、ソニー株式会社デザインセンター、ソニーCSLインタラクションラボ勤務などを経て、2000年ロンドンに本拠を置くクリエイティブ集団tomatoに所属。インタラクティブ広告から創作落語まで、そのアウトプットは多岐にわたる。2011年よりワイデン+ケネディ トウキョウのエグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクターに就任。

橋詰宗

1978年広島県生まれ。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業。英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA) コミュニケーションアート&デザイン修士課程修了。さまざまな領域のアートディレクション,ブックデ ザイン,ウェブデザイン等を手掛ける一方、『D ♥ Y』『HUMAN PRACTICE』『何に着目すべきか?』『紙と束見本』『( )も( )も( )も 展』など,実践と着目点をコンセプトにしたワークショップ,スクールや展覧会ディレクションを手がける。

榎本郁也

1975年東京生まれ。武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科卒業後、眼鏡メーカーCHARMANT.inc入社。東京デザイン室勤務を経てミラノデザイン室(イタリア)にてファッションブランドの眼鏡デザインを担当。帰国後独立して2012年アイウェアデザインスタジオONLYGOODFORMS設立。東京を中心とした眼鏡ブランドのデザインを多数手がける。

森山秀人

1967年東京生まれ。バンタンデザイン研究所ファッションデザイン科卒業。大手眼鏡 メーカーのインハウスデザイナーとしてキャリアを積んだのち独立。フリーのデザイナー として数々のメゾンブランドのデザインを担当すると共に、4年前より自身のオリジナル アイウェアブランド「Bobby Sings Standard,」を立ち上げ、70年代前後のビンテージ フレームをベースにしたその独特なデザインで眼鏡業界のみならずファッション業界でも多くの支持を集めている。