「あなたの“タイポ買い”、教えてください!」Part.2

人気クリエイターが選ぶ“文字”にまつわるプロダクト

今回の特集では、いつもと少し趣向を変えて、グラフィックデザイナー、編集者、ショップオーナーなど、TYPEにゆかりのある方々を中心に、ジャケ買いならぬ、“タイポ”買い/“フォント”買いしたプロダクトについて伺いました。日頃から文字を扱っているプロフェッショナルたちは、はたしてどんなお買い物をされているのでしょうか? 全16名のクリエイターたちの私物を、前・後編に分けてご紹介します!
Text: 原田優輝

ヒロ杉山 / ED RUSCHA, ANDY WARHOL, ROBERT MAPPLETHORPE 展覧会カタログ

購入場所: オンサンデーズ
購入時期:90年代前半
使用フォント: 不明

「大きな色面に、シンプルにフォントのみで構成されたデザイン。これ以上ないミニマムなところに惹かれました。フォントの美しさが際立ちます。」

ヒロ杉山

1962年東京生まれ。1986年東洋美術学校卒業後、湯村輝彦氏に師事。1987年谷田一郎と近代芸術集団結成。1997年エンライトメント設立、米津智之が参加。伝説のフリーペーパー「トラック」を創刊(全7号)。2004年箭内道彦氏と風とバラッド設立。

古平正義 / Rolling Thunder Logbook

購入場所: はっきり覚えてないですが、たぶんNYかLAの書店かと。
購入時期:5~10年くらい前
使用フォント: タイトル部分は40~50年代の木活字、本文はTribute(Emigre)。[本書付記より]

「ボブ・ディランの75~76年のツアー『ローリング・サンダー・レヴュー』に同行したサム・シェパードによる記録。最初の本が77年に出版されて以来何度か新装版が出たり、邦訳版もあって持っているのですが、これは2004年に新たに書かれたサム・シェパード本人の序文が追加された復刻版。 海外の書店で見慣れない表紙を見て反射的に手に取ったら、本文も全編に渡って木活字(wood type)が展開されていたので…。デザインも印刷もクオリティはそれほど高くないけれど、これぞフォント、というかタイプ買いでしょう! と思って今回改めてよく見てみたら、最後のページにフォントのことまで丁寧に記されていました。サム・シェパードが書いたボブ・ディランの本に活字やタイプフェイスのことまで書くなんて! やっぱり日本はまだまだだなぁ、と思ってしまいました」

古平正義

1970年大阪生まれ。FLAME主宰。主な仕事に「ラフォーレ原宿」広告・CM、「ローリングストーン日本版」アートディレクション、「アートフェ東京」のグラフィックデザイン、GLAY・INORAN等のCDジャケット・ミュージックビデオ他。建築のサイン計画や展覧会の会場構成等も手がけている。 ONE SHOW 金賞・銀賞、D&AD Yellow Pencil、東京ADC賞など受賞。
www.flameinc.jp

秀親 / ヒンズー語のテンプレート

購入場所:インド
購入時期:1999年頃
使用フォント: ビットマップフォント

「ヒンズー語の知識は全くないのですが、これがあればちゃんと書けるでしょ。パッケージ開けてないのでまだ書けてませんが。そもそもテンプレートっていう形状が大好きなんですね。」

秀親(大日本タイポ組合)

秀親と塚田哲也の2人で1993年に結成。日本語やアルファベットなどの文字を 解体し、組み合せ、再構築することによって、新しい文字の概念を探る実験的タイポグラフィ集団。文字通りモジモジしながら文字で遊んで21年。ロンドン、 バルセロナ、東京にて個展を開催。
シンガポール、香港、韓国などでの企画 展に参加。12年古堅まさひこと共に日本科学未来館にて「字作字演展」を 開催。TokyoTDC会員。

大原大次郎 / Aphex Twin 「Selected Ambient Works 85-92」

購入場所:伊勢佐木モールにあったHMV
購入時期:1994年
使用フォント: ポール・ニコルソン作字による「A」

「言葉にならない記号の呪術性に、トリコじかけになりました。」

大原大次郎

1978年神奈川県生まれ。2003年武蔵野美術大学基礎デザイン学科卒業。同年omomma設立。タイポグラフィを基軸としたデザインワークや映像制作に従事するほか、フィールドワーク<文字採集>、チャンスオペレーションによる言葉あそび<文字くじ>、重力を主題としたモビールのタイポグラフィシリーズ<もじゅうりょく>、音楽家の蓮沼執太とラッパーのイルリメと共に展開する、ライブパフォーマンス<TypogRAPy(タイポグラッピィ)>など、展覧会、ワークショップ、出版、パフォーマンスや対話の場を通して、言葉や文字の新たな知覚を探るプロジェクトを積極的に展開する。2014年TDC賞、JAGDA新人賞受賞。

田中良治 / Nerhol「oratorical type」

購入場所:calm & punk
購入時期:2008年
使用フォント: 不明

「ちょうど時間軸と書体というテーマを熱心に考えているころで、とても共感して購入に至ったという記憶があります。」

田中良治

1975年三重県生まれ。アートディレクター/ウェブデザイナー。同志社大学工学部/岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー卒業。2003年に株式会社セミトランスペアレント・デザイン設立。ネットとリアルを連動するような独自のデザイン手法を確立しウェブ広告を制作。国内外の広告賞を多数受賞。
08年にインターコミュニケーション・センター(ICC)、09年に山口情報芸術センター(YCAM)、10年にクリエイションギャラリーG8、11年にポンピドゥーセンターでのインスタレーションを展示。また12年には21_21 Design sightにて田中一光氏のためのインスタレーションを展示するなど、デジタルメディアを扱いながらグラフィックデザインに接続するような作品を多数制作している。

有馬トモユキ / 書籍「ECM: A Cultural Archaeology」

購入場所:Amazon.co.jp
購入時期:2013年10月
使用フォント: Brown Pro

「書体に目を引かれて購入の動機になってしまうものは、どうしても書籍が多くなってしまいます。これはECMというジャズ・現代音楽レーベルが2012年にドイツで行った展覧会のドキュメンタリーです。
もともとレーベルのファンで関連書籍も何冊か持っていましたが、書体が個人的にファンであるLinetoから出ている「Brown」書体で、表紙だけでなく本文も含めて組まれています。内容の文脈に即したレイアウトや、「帯が書籍の中央で留まる」仕掛けなど、注目したい点がとても多い、魅力的な本です。」

有馬トモユキ

デザイナー。複数社を経て、日本デザインセンターにてWeb、UIの領域で従事する傍ら、TATSDESIGN名義でグラフィックデザインを中心に商業コンテンツ作品とそのプロモーションに関する活動を展開。2011年よりクリエイティブグループGEOGRAPHICディレクター。2012年より朗文堂・新宿私塾にてタイポグラフィにおける複数メディアへの定着と実践をテーマに講師をつとめる。

下浜りんたろう / PASMO

購入場所:券売機
購入時期:発売当時
使用フォント: オリジナル書体と思われます。

「交通系のカードのデザインというのはゴチャゴチャしたものが多かったのですが、PASMOはタイポグラフィだけのスッキリしたデザイン。
私はカードフェチなので、必要もないのに購入しました。ただ、今一番気に入っているのは、北海道の「kitaka」というモモンガが飛んでいるカードです。」

下浜りんたろう(のらもじ発見プロジェクト/中)

1983年東京生まれ。金沢美術工芸大学卒業。インタラクティブなアートディレクター。

宮後優子 / Cyrus Highsmithさんの絵本『Apple Bear Cat』の缶バッジ

購入場所:MMM(メゾン・デ・ミュゼ・モンド:ギンザ・グラフィック)
購入時期:2014年4月
使用フォント: 手書き

「書体デザイナーCyrus Highsmithさんの手書き文字やイラストは独特の味わいがあって大好きです。TDC展を見に行った時、会場となりのショップMMMでこの缶バッジを見つけ、購入しました。バッジはAからZまでありましたが、文字とイラストがかわいいZを選びました。」

宮後優子

デザイン書編集者。東京藝術大学卒業後、出版社へ。デザイン専門誌『デザインの現場』編集長を経て、2012年に文字専門誌『TYPOGRAPY』を創刊。2010年からタイポグラフィイベント「TypeTalks」を小林章氏、高岡昌生氏と共同主宰し、青山ブックセンター本店にて開催中。